2017 prevention_02 Naoki Matsumoto

ナガノオルタナティブ 2017_02
「プリベンション」松本直樹展
2017 9/7,8,9,11,12,13,14,15,16,17 – solo 10 days –
松本直樹x丸田恭子クロッシング9/18,19,20,21,22,23 – solo 6 days –
*9/17:公開クロッシング(作品セッティング)
12:00~17:00 ¥500-
@ FFS_Warehouse Gallery

2017 9/23 sat ・16:00~ ギャラリーアーティストトーク


door : 掛矢に布袋様を継ぐ #2 2016 木彫置物、掛矢 45.5×29.5×43.5 cm


道具のこと(ステートメントにかえて)松本直樹                                             

 たとえば、姿勢が悪いままノコギリを引けば、素材はまっすぐに切断されず、稼働中の電動丸ノコを持つ手がブレれば、その刃ははじかれ、脇の締めがあまく肘がブレると、釘はまっすぐ打ち込めません。
 マルティン・ハイデッガーはその著書『存在と時間』の中で「道具を使用し操作する交渉は盲目ではなく、それには固有の見方がそなわっていて、これが操作をみちびき、それに特有の即物性を与えている」といいます。
 すなわち道具は、前提として(道具は事物にも関わらず)先験的に、使用する者を選ぶ権利を有し、それを使おうとする者は、道具自体と直接交渉せねばならなく、さらにこの掛け合いがうまくいかなければ、使用者はその目的を果たせないばかりか、ときに文字通り「痛い目」に合うということです(誰しも道具そのものからその使用法を学ぶ、あるいは、道具との「交渉決裂」ないし「破談」を一度は経験したことでしょう)。
 手中で道具を「意のままに操っている」などという、われわれ人類の奢りとは裏腹に、実のところは道具の方が、人類に使われることを許容しており、さらには道具の方こそが、その道具の「果たすべき目的の達成」へと導ける人類を選んでいる、ともいえるでしょう。

 そもそも、この果てしない世界を、すべての生物はそれぞれの固有な知覚をとおし、自らが働きかけることの出来得る「世界」として再構築しているといわれます。
 マダニは、嗅覚、温度感覚、触覚、という3つの知覚によって、彼らの「世界」を形成しているといわれます。嗅覚は獲物となる近づく哺乳動物の匂いを嗅ぎ分け、温度感覚は獲物の体温を捕捉します。そうして木の上に身を潜めたマダニは、木の下を獲物が通過するその瞬間――この知覚にすべてを賭け――身を投じるのです。うまいこと相手の体表に着地できれば、触覚をフル稼働させ、毛の少ない皮膚を探り当て、生き血へとありつくのです。
 このような、外的事象を拾い上げるそれぞれの知覚と、その知覚をとおし感受され、外部へと行為が誘発されるという連関、つまり主体と環境との関係を、生物学者であるユクスキュルは「環世界」と名付け、ハイデガーの思索に影響を与えました。

 マダニのように、われわれ人類も「環世界」を持っています。しかし、われわれが道具と一対となったとき、人類の「環世界」は、道具が指し示す別の連関へと転移します。金槌と鑿を手にすれば、自らの腕力で岩石をも砕けるように、道具達から様々な世界への認識を教授され、成すべき目的をさえも与えられるのです。つまり人類の「環世界」は、道具の「環世界」へとすり替えられてしまうのです。
 主体と環境との関係が「環世界」であるならば、「環世界」が変わる、ということは、道具によって、一般には定常的だと思われている、われわれの主体さえも変えられてしまうことを意味します。もしかすると、われわれの謳歌するこの文明は、人類の体を乗っ取った道具達の「主体性」によって形成されたものなのかも知れません。

 さて、今回展示されている多くの作品は、道具を題材、あるいは素材そのものとして制作されたものです。可能であれば本展をとおし、道具や事物達が見せる世界をうかがい、感じていただければと願っています。

きっちょむの壷(わっとひろげる) 2015 古信楽(伝 室町時代)を切断、継ぐ 34×34×42.5 cm


きっちょむの壷(大明萬暦年製) 2015 陶器(伝 明朝)を切断、継ぐ 24×24×18.5 cm


きっちょむの壷(唐子乗桃)
2016
徳利を切断、継ぐ
11×11×19.5 cm



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松本直樹 Matsumoto Naoki
1982 年生まれ。
東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了[2007]。既製品や日用品などを用いて、従来の造形技法や諸造形の要素を分解、その機能を再構築する。また2015 年よりアーティストユニット「ミルク倉庫+ココナッツ」のメンバーとしても活動。
同名儀にて、9 月中旬より東京の曙橋にある「S.Y.P art space」にて個展。
詳細は >>> http://www.milksouko.com/

主な個展:
「魔法使いと魔女」[アリコ・ルージュ(長野), 2014]
「第二十計混水摸魚」[Gallery Objective Correlative(東京), 2007]
(以下、ミルク倉庫+ココナッツ名義)
「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」[岐阜県美術館(岐阜), 2017]
「家計簿は火の車」[3331 Arts Chiyoda(東京), 2016]
ほか

主なグループ展:
「Self-Reference Reflexology」[ミルクイースト(東京), 2016]
「気持ちいい絵 展」[路地と人(東京), 2015]
「無条件修復」[ミルクイースト(東京), 2015|出品、および企画(高嶋晋一+宮崎直孝と連名)]
(以下、ミルク倉庫+ココナッツ名義)
「TRANS ARTS TOKYO 2016」[かね十(東京), 2016]
ほか



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